６０．飛べない鳥

「ねぇ×２、太一くん。前世ってなんだったと思います？」
長瀬が帰ってきて、そんな事を言った。
「はぁ？何、言ってんの？」
「ですから、前世ってなんだったと思います？」
最後に音符がついてそうなくらいにワクワクした感じで俺を見ている。
「･･･お前は、ゼッテェ犬だな」
「何でですか！？」
「お前を見て、そのまま言っただけだぞ、俺は」
「そんな事ないッスよ！あっ！でも、犬だったら茂くん達にかわいがってくれるか。でも、お話が出来ないのがいやだな～、う～ん」
犬だと良いか悪いか真剣に考えてる。
俺はそれを呆れながら見ている。

･･･あれっ？

「お前、何でそこに茂くん達がでてくんだ？」
「えっ？だって、俺、茂くん達と前世も一緒だったと思うんです！！」
当然！っていう感じで言う長瀬。
ある意味、お前は凄いよ。
「太一くんも思わない？俺は思うよ。
前世も皆と一緒でこれからも皆さんと一緒です♪」
「俺は別に思わない」
そう言うと、長瀬は悲しい顔になり、俺を見る。
「ばーか。ンな顔すんな！」
長瀬の頭を撫でてやると、嬉しそうな顔に変わる。

そう。嫌じゃない。
前世も　そして、　これからも一緒にいれる。
だけど、未来永劫なんていらない。
今　この時、　あの人達が幸せならいい。
笑っていてくれるなら、それでいい。

「駄目だよ、太一くん！」
「・・・はっ？」
「俺だって、茂くん達に笑っていて欲しいし、幸せになって欲しいよ！でも、太一くんにも笑っていて欲しいんだから！！」
「何言ってんだよ、お前」
「自分が不幸になって、茂くん達が幸せになったって、茂くん達は絶対嬉しくないんですよ！！」
なんで、こいつ、俺が思っていた事を･･･。
「･･･分かったよ」
そう言うと、また、ニパッという感じで笑った長瀬。

･･･お前。やっぱ、前世は犬だな。

１０．失うという事

失うというのは怖い事だ。

俺にとって大切な人。

家族・・・友達・・・

目には見えないモノ。

友情・・・愛情・・・信頼・・・

それを失うというのは怖い。

それを失わないように、俺はあがいて、

あがきまくって・・・

「「・・・・・・かッ！！」」

俺･･･もう失いたくない。


「目、覚めたか？」
「･･････茂くん」
「大丈夫か？」
「･･･兄ィ」
「ったく、無理しやがって。
熱があるんだったら言えよ、お前は！」
「熱？」
「覚えとらんの？
自分、仕事が終わった瞬間、倒れたんよ」
「うそ！？」
「ホンマ。まあ、松岡らしいけどな」
「そう×２」
「？」
「「真面目♪」」
「～ッ」
「でも、無理はあかんで、松岡」
「それは貴方にも言えるよ」
「なんでやねん」
「知らないなんて言わせないよ、茂くん」
「し・・・知らん」
「ふ～ん」
「・・・ごめん」
「「･･･？」」
「ごめん、迷惑かけちゃって･･･」
「松岡×２」
「･･･えっ」
「馬鹿」
「なっ!!」
「松岡。こういう時は謝るんやないよ」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「茂くん。兄ィ。ありがとう」
「「どういたしまして」」
 

５７．モラルの崩壊

いつからか俺は間違っていたのかもしれない。

「茂くんはここにいて」
「･･･山口ッ！！」
貴方は頭は良くて。
でも、全然体力がなくて。
銃も下手だから・・・。
「・・・ッ！！」
こういう戦場(ばしょ)にはいるのがおかしい人だから、俺が守らなきゃ!!
「山口ッ！！」
「･･････茂くん？」
「このアホ!!何で自分ばっか行くん！」
違う。
「･･･僕って、そんなに頼りないん？」
違う。こんな顔させたいんじゃない。
「確かに山口みたいに力ないし、銃もうまぁないよ」
貴方にそんな顔させたくない。
「確かに僕は頼りない隊長や」
「･･･違う。」
「でも、僕は山口に守られたいんやない。僕はそんな弱くない」
分かってる。
「なぁ、山口。僕って、そんな頼りないん？」
「･･･ごめん、茂くん」
「えぇよ。ありがとうな、山口。
僕は体力も力もあらへんから、山口をおんぶする事は出来へんけど、肩を貸す事は出来るんよ」
「分かったよ、茂くん」

俺はどこかで間違えていたかもしれない。
いつからか俺は貴方を弱いと決めつけてしまっていた。
いつからか貴方は俺が守らなければいけないと思っていた。
でも、それは俺だけで、貴方は望んでいなかった。
貴方には笑っていて欲しい。
最後に見せてくれた笑顔でいて欲しい。

俺はどこかで間違えていた。
貴方は頭が良くて、体力もなければ銃も下手だ。
でも、弱くないし、頼りなくない。
貴方を守らなければいけないんじゃなくて、俺が貴方の傍にいたいだけ。

３１．還る場所

決まって同じ日に同じ夢をみる。
その夢は真っ白な部屋で、少年がいる。
少年はその部屋に同調するかのように、白い服を着ている。
何かをすることもなく、ただ、そこに存在する少年。

そして、そのまま目が覚める。
僕は息を乱す訳でも、汗をかいている訳でもないのに、異様に恐怖感がある。
僕はベットから出て、着替え、部屋を出る。

夢に出てくる部屋なんて知らん・・・と思う。
あの少年も知らん・・・と思う。
知らんという断言が出来へん。
僕は物心がついた頃には、ここにいるから。
あの夢は一体、なんだろう？
何で、いつもこの日なんだろう。
――――というか、なんで、僕、いつもこの場所に来るんやろ？
あの夢を見る度に僕はここに来てしまう。
夕陽は沈みかけ、波の音がただ聞こえる。
僕は砂浜に立ち、じっと見つめる。
落ち着く。
でも、奥底から段々と虚無感がでて、孤独感になる。

帰ろう。
ううん、帰りたい。
安心出来るあいつらの元へ。
今、離れているヤツらもおるけど、毎日のように届く手紙があるから、離れている感じはないんよ。
今日も届いているやろ。
そこには、ある一言が必ず、書いてあって、
その言葉を見ると、何故か心が痛むんやけど、
それでも嬉しいって思える。
帰ったら、あいつらに怒られるやろな･･･。
ホンマ、優しいヤツらや。
ホンマ、僕は幸せモノや。
だから、帰るんや。
僕が唯一、守りたい場所へ。