７．静寂の空間

俺はいつものように廊下を歩いて行く。
そして、ある部屋の前で止まり、ノックを２回する。
いつものように返事はない。
当たり前のようにドアを開け、中に入る。
それで、いつも最初に目に入るのは、椅子にもたれかかるように座り、日向ぼっこをしているかのように寝ている貴方の姿だ。
でも、今日はその姿は見えない。
俺は軽く息を吐く。
俺は貴方の椅子に座り、ふと貴方と初めて会った時を思い出した。

初めて貴方と会ったのは、俺がココに来てすぐの頃だった。
貴方は俺と１つしか年が変わらないのに、“隊長”という地位にいた。(･･･って言ってもメンバーが貴方しかいなかったんだけどね！)
俺と目があった時、貴方はにっこりと笑い、「こんにちわ」と言ってくれた。
俺はその瞬間、貴方の傍にいようと決めた。

それから、何年もたって今でも俺は貴方の傍にいる。
メンバーは未だに２人しかいなくて、貴方は頭は良いけど、全然体力がなくて、いろいろと大変だけど、貴方が俺の傍にいてくれるだけで、俺は凄く嬉しい。

でも、貴方は年１回だけいなくなるね。
貴方は一体、どこにいるんだよ。
毎日のように届いている手紙も読まずに。
きっと、そこには貴方が拒んでいる言葉が書いてあるから。

何故、貴方が拒んでいるのかは知らない。

でも俺達は言いたいんだよ。

茂くん、お誕生日おめでとう

産まれてきてくれてありがとう

貴方に会えて嬉しいよ。

４．僕がいる理由

俺は、ある人に頼まれてココにいる。

あの人は俺にそんな事を頼んだだろう？

そして今、俺の隣にいる人はココに行く事を決めたんだろう？

一度、聞いた事がある。
返ってきたのは、

『あの人が嫌いだから』
――だった。

嘘だ。

あの人は俺達の恩人だし、あの人は優しい笑顔で全てを受け止めてくれた人。
俺の隣にいるこの人も分かっているはず。
だから、嫌いなんて嘘だ。
俺はバカだから、良く分からないけど、この人は凄く考えて、ココに行く事を決めたんだと思う。
それを知っているあの人は止めず、俺に頼んだと思う。

最初はネ、実はあの人が俺の事、嫌いだから、ココに行かせたのかと思った事があるよ。
本当にバカだよね、俺。
嫌いな奴に手紙なんか出さないよね！
内容はいつも体調の事を聞いている。
俺の誕生日には・・・

「長瀬！誕生日おめでとう」
「ありがとう♪」
そう。俺の誕生日には、いろんな人から祝ってもらえる。
今だって、俺の隣にいるこの人から祝ってもらえた。
手紙で、あの人やあの人と一緒にいる人達にも祝ってもらえる。

俺、本当に幸せだよ！
俺も皆の事、大好きだから。
皆の笑顔を守りたいから。

だから、俺はココにいる。

１．Birth(誕生)

僕は灰色の世界に立っていた。

「隊長？」

「なぁ、山口。何で僕等はこんな事、してんやろ？」

「それは世界平和の為です」

「本当にそうなんやろか…」

「隊長……茂くん!?」

あぁ、そう呼ばれるのは何年ぶりだろう？

山口に『茂くん』って呼ばれるの結構、好きやねん。

でも、何でこんなに慌てているんやろ？いつも落ち着いてる奴なのに…。

「…なぁ、山口。ここは僕等のエゴしかないねん」

そう、この国は僕等が滅ぼしてしまった。

「この国を滅ぼしたからと言って、本当に世界は平和になるんやろか？皆は幸せになってくれんか？僕は違うような気がすんよ」

「茂くん…」

僕は灰色の世界に立っている。

僕等の自分勝手な考えで作ってしまった世界…。

「…あっ」

「茂くん！！」

体が勝手に動いた。

灰色の世界の中で唯一、違う色を見つけたから。

「…山口。何か僕、嬉しいわぁ」

後ろをついてきてくれてる山口に思わず、言ってしまった。

「いつも当たり前にあるモノなのに、何か今は嬉しいわぁ」

僕の目の前には綿毛がある。

綿毛は風に揺れ、僕の横を通り過ぎた。

僕は目で追って行く。

「茂くん、帰ろ？」

僕はうなずき、僕等は去って行った。