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駿河桔梗の完全個人趣味ブログです。
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江明様から
HP1周年記念で頂きました小説です。(最遊記)
(04/01/05UP)

~ 華雪 ~



空は蒼く、窓を開けていると風が暖かな香りをはこんでくる。
日が傾き始めた頃ゆっくり紙をめくる音が微かに聞こえてきた。
音は天蓬の部屋から聞こえていた。
部屋の主、天蓬は椅子に座り、悟空は床に寝転び各々読書に浸っていた。

ふと視界の端に捕らえていた悟空に違和感を感じた天蓬は静かに瞳を向けた。
暫く見ていると違和感の理由が解った。
先ほどから本の一点を見据えたままページが進んでいないのだ。
天蓬が声をかけようと口を開いたのと同時に
悟空が本から瞳を離さず聞いてきた。

「なぁ・・・天ちゃん、これ・・・」
「・・・?」

栞を挟み本を近くの机に置き立ち上がった。
そして、悟空の傍に腰を下ろし本を覗き見た。

「これ・・・・・・悟空読めるんですか?」

悟空の読んでいたのは下界の少し難しい本だった。
今まで絵本を読んでいた悟空には難しすぎるように思えた。

「ううん。読めないよ」

あっさりと否定されてしまった。
風がページをめくっていた時瞳に入ったのだという。
少し感心にも似た心持ちでいると再び悟空が聞いてきた。

「・・・なぁ、これ何??」

『これ』と指し示されていたのは写真だった。
上のほうから白い『何か』が落ちてきている写真。

「あぁ。これは“雪”の写真ですね」
「ゆ・・・き・・・」
「綺麗ですよね・・・♪」

悟空にはもうこちらの話は聞こえていないようだった。
ただ一心に『雪』の写真を見つめていた。
天蓬はそれ以上何も言わず、嬉しいのか呆れているのか
そんな微笑みを浮かべ自分も本の世界へと舞い戻ることにした。

(雪・・・金蝉見た事あるのかなぁ・・・)

などと思案しているうちに何か妙案が浮かんだらしく
口元に隠し様のない笑みを浮かべた。

「天ちゃん!ありがとう!!」

居ても立ってもいられなくなった悟空は部屋を飛び出していった。
本の世界に入りこんでいる天蓬は虚空に手を振って見せただけだった。

      * * * *

悟空は自分の部屋から少し大きい袋を持ち出し急いで外へ出た。
辺りを見回してみたが誰もいなかった。
悟空は何故かますます嬉しそうな笑顔を見せた。
再び走り出し、森の中へと分け入った。
目的の場所がわかっているのか一直線に進んでいく。
走っている事までもが楽しくなってきたころ少しひらけた場所に出た。

「あった・・・」

辺り一面の花。木々の葉から零れ落ちる日の光。
どこかで鳴いている小鳥達の歌声。何もかもが綺麗だ。
ここは誰にも教えていない悟空の秘密の場所。
しかし、この場所を鑑賞するのも程々に袋から零れんばかりに花を摘み
来た道を引きかえした。

森を抜けた所で足を止め、少し思案した。
そして、以前『花見』をした桜の樹を目指し走った。
袋から花が零れ落ちないように走っている所為かなかなか辿り着けない。
やっと辿り着いた樹の下には太陽の髪を持つ美しい人が横たわっていた。

(やっぱりここにいた・・・♪)

『花見』以来この場所が気に入っているようで度々ここに来ているらしい。
静かに近付いていく。“太陽の君”の横に立ち様子を見た。
寝ているようだ。心地良い息遣いが聞こえてくる。
悟空はふと桜の樹を仰ぎ見た。
残念な事に今は桜の樹に花はない。
もし花が咲き乱れ、そよ風が花びらと舞い踊っていたら
さぞかし“太陽の君”を美しく彩っていただろう。

(・・・・・・よし!)

少し気合いを入れ、花の詰まった袋から静かに少しづつしかし、出来る限り急いで
“太陽の君”・・・金蝉の周りに花を降り敷き詰めた。
あらかた敷き詰め終わると袋から残り僅かの花を手にとり
金蝉の頭の上にかざした。

(・・・へへ♪♪)

声もなく笑い、両手を静かに開いた。
花は当然金禅の顔にかかった。
金蝉が訝しげに瞳を開けると悟空の満面の笑みが瞳に入った。
眉間にあからさまなシワができた。
上半身を起こそうと手を地についた時さらに眉間のシワが深くなった。
自分を囲むように『白い』花が敷き詰められていたからだ。

「へへ♪キレイだろう?」
「・・・・・・なんのつもりだ?」
「“ゆき”!!」

悟空はこれ以上ないという満面の笑みを浮かべた。

「あのね。天ちゃんとこで見てた本に載ってたんだ!」

そう言いながら敷き詰めた花を再び手ですくい上へと舞い上げた。
花はひらひらと舞い落ちてなんとも言えない美しさを披露した。
それを幾度も繰り返している悟空には先程から笑みが消えないでいる。
なんとも満足そうだ。

金蝉は起こしかけた上半身を再び横にした。
顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。

「なぁなぁ♪キレイだろう♪♪」
「・・・あぁ。そうだな」
「へへへ♪♪」



常春の天上にも一部雪が舞い降り、大地を染めた・・・。
溶けることのない『雪』が・・・。
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