５５．屋上から見る景色

何となく屋上に上がってみた。
そこには何もなかった。
でも、暗い所を歩いていた俺にとっては、一瞬、別世界のようにも見えた。
俺はフェンスに寄り掛かるようにして座った。
特に見るモンなんてないけど、自分が入ってきたドアの方をぼーっと見ていた。

そういえば、あの人も良く屋上にいたなぁ。

屋上で良く煙草を吸っていたあの人。
その空間だけが違うように見えて、近付く事も声をかける事も出来なかった俺。
あの人は何を考えて、あそこに立っていたんだろう。
あの人にはどんな風に見えていたのだろうか。
まぁ、そんな事を考えていても、あの人の考える事なんて分からないんだけどね。

「･･･風が気持ちいいな」
俺は目を瞑り、顔を上げる。
甘く独特な匂いがする金木犀がほのかに冷たい風と一緒に俺の周りを通っていく。

４８．穏やかな日々

「山口って、ホンマに夏が似合うなぁ」
「何だよ、急に？？」
「いや、山口を見てると、夏が似合うなぁって思うて」
「いや、説明になってないから。
それに、茂くんだって夏が似合うじゃない」
「僕？？」
「そっ！縁側で日向ぼっことかしてそうじゃん、おじいちゃん♪」
「なんでやねん！」
「長瀬と太一も夏が似合うな」
「おん。二人して、川遊びや虫取りしてそうやな」
「そう×２。後は松岡か～。松岡は夏って感じしないな」
「そうでもないで！松岡は『そうめん茹でたけど、食べる？』って言う感じやない？」
「茂くん、兄ィ。そうめん茹でたけど、食べる？」
「･･･アハハッ！！！松岡。お前、すっげ～～～、いいタイミング!!アハハ･･･ッ!!!」
「えっ？何？何よ？？何で兄ィ、大笑いしているの？！茂くん！俺、何かやった？！」
「何もしとらんよ。皆が夏男やっていう事や」
「は～。意味が分からないよ」
「まぁ、いいじゃねェか、松岡。それよりもそうめん食うぞ」
「う･･･うん」

５０．赦し

自分は時々、自分でも分からなくなる異様なモノが出てくる。
いつも変わらないつもでも、周りから見れば違う。
それを気にしないでいてくれる人もいれば、怒ってくれる人もいる。
それは分かっている。自分でもそんな風になってしまう自分が赦せない。
でも、もっと赦せないのは、その事に関して謝れない自分だ。
怒られた時に、すぐに謝れば良いのに、謝れなかった。
それなのに･･･怒ってくれた人が、

『ごめん･･･言いすぎた』
と言ってくれたら、自分もすんなり謝る。
本当にヒキョウな奴だ。
こんな自分を赦し、いつも通りに接してくれる。
自分が本当に嫌いだ。
こんな良い人達が周りにいてくれるのに･･･自分は何も出来ない。
こんな自分を赦して欲しいとは思わない。
でも、嫌いにならないで欲しい。
嫌いになってしまうような事をしているのは、分かっている。
でも、こんな卑怯で醜い自分を嫌いにならないで。

お願いします---------。

５．一輪の花

最近、長瀬は写真を撮る事が多い。
毎日のように何回も写真を撮っている。
俺も見せてもらった事がある。
くやしいけど、良い写真だ。
俺には撮れない･･･長瀬だからこそ、撮れる写真だと思う。


「太一くん×２!!」
「何だよ、長瀬。うるせェぞ！」
「これ見て下さい!!」
そう言って、意気揚々と一枚の写真を渡してきた。
見ると、そこには小さな花が咲いていた。
「その花、太一くんっぽくないですか?!」
「どういう意味だ！！？」
「違うんです!!別に太一くんが小さいっていう訳じゃないんです！！」
一生懸命、説明している長瀬。
何かムカつくから殴っとく。
「いって～～～～ッ！！！」
ちょっと満足。
「痛いじゃないですか、太一くん!!!」
「お前が悪い」
「何でですか？！」
「それで！何で俺なんだ？」
「分からないッス！分からないッスけど、見て、太一くんだって思ったんッスよ！」
「あっ･･･そ･･･。これ、もらうぞ」
「えっ!?」
「くやしいけど、いい写真だと思う。だから、もらうぞ」
「･･････はい!!」