７２．コンタクト

「なぁ、山口」
「ん～？」
「山口はココに来たのを後悔した事って、あらへんの？」
「何、急に？」
「いや～、今何となく思っただけなんやけどな～」
「そっ。ん～、別に後悔はした事はないと思うけど。茂くんはあるの？」
「ん～。僕はこの道しかなかったようなモンやからな～」
「そうなんだ」
「おん。でも、後悔はしてへんね。得たのもあるし…」
「何？」
「内緒」
「何だよ、それ！」
コン コン
「……何やってんの？」
「「読書？」」
「仕事しなさいよ!!」
「わりィ×２」
「すまん×２。せや。松岡はココに来たのを後悔した事は、あらへんの？」
「は～?!何よ!?急に!?ないよ!!」
「断言するんだ」
「当たり前でしょ！俺が決めたんだよ！後悔なんかする訳ないじゃん!!」
「松岡は格好えぇなぁ」
「まぁね。俺ぐらいになると、そんな事、普通だから」
「意味分かんねーぞ、松岡」
(そっか…後悔してへんか…)

『茂くん達に会えないのは寂しいッスけど、後悔はしてませんよ。太一くんにも聞いてみたッスけど、「は～?!!」って、怖い顔されました。それで、「グモンだね」って言ってました』
 

９６．異国の血

俺がこんな事を始めたのに理由はない。
何時だったか…何となく耳に入った花を買った事があった。
それがキッカケかもしれない。
花を殺風景なベランダに置いた。
その部分だけが違うように見え、何故か何度も見てしまう俺がいた。
それから、少しずつ増えて、野菜やハーブとかまであって、殺風景なベランダは跡形もなくなっていた。
俺は長時間、ベランダにいる事がある。
咲いた花を見たり、立派に伸びた葉を触ったりするのが気持ち良かった。
枯れてしまう事だってある。
その度に悔しくて、申し訳ない気持ちになる。
それでも、ここまで生育してくれた事が嬉しい。
俺は今日もベランダにいる。
やっぱり花を見たり、葉を触ったりしている。
陽射しは、まだ×２強くて暑い。
でも、風は少し冷たく感じるぐらいで吹く。

あぁ…気持ち良いなぁ。

９２．夢と現実

自分が見える範囲には、月は見えなかった。
夜空には星がいつもよりちょっと多く見えているような気がした。
何か嬉しくなって、見える範囲を広げようとベランダから身を乗り出してみた。
そうすると、やっぱり星が少し見えた。
更に嬉しくなって、もっと見えるんじゃないかと思って、そのまま前後左右にキョロキョロと見ていた。
夢中になっていたら、急に後ろに引っ張られた。
急だったから、反応が上手く出来なかった。でも、倒れそうになった時に後ろから誰かが支えてくれた。
お礼を言ったら、その人は笑って「危ねぇぞ」と言った。
「甘いよ!!」と、自分を引っ張った人が腰に手を当て、睨みながら言った。
そして、自分に向け、「落ちたらどうすんだ!!?」とか「ケガだけじゃ済まないかもしれないんだぞ!!」とか言った。それは自分を心配しての言葉だと分かるから、本当に申し訳なくて、その人に謝った。
「それぐらいにしといてやれよ」と支えてくれた人が言い、「だから、それが甘いんだって」と引っ張った人が言った。
「皆してココにいたん。スイカ切れたで」
ベランダに出れる窓から顔を出し、笑顔で自分達に言った。
スイカという言葉に反応してしまった自分は、「はーい!!」と返事をして笑顔をくれた人の方に走って行った。後ろで何か叫ばれているような気がしたけど、スイカで頭がいっぱいになっている自分には聞こえなかった。
自分は笑顔をくれた人に「星がキレイだったんですよ！」と見た事を興奮しながら話した。
その人は、ずっと笑顔で話を聞いてくれた。
そして、「良かったなぁ。でも、気を付けてな」と言った。

８５．深海

僕は目が悪い。
だから、眼鏡(コレ)がないと何も見えない。
僕にとって、眼鏡(コレ)は必要不可欠な物で…。

だけど、時々、見え過ぎてしまう。

だから、時々、眼鏡を外してみる。

全てがボヤけている。
いつもは何をするにも不便で仕方がない。それでも、何かそういう時は気持ちが落ち着いていくような気がする。
こうやって、ボヤけさせて、ぼーっとしている所を昔、長瀬に見つかった事があったなぁ…。
特に大した理由なんてない。
只、こうやっている事が好きなだけなのかもしれない。
この感じは一体、何なんやろなぁ…。